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第19回「飛梅」

 美浜町上野間にある社有地に何本もの梅の苗木を植えました。鮮やかな白い花を咲かせる南高梅、上品な淡紅色の花を付ける豊後梅の2種類の梅です。どちらも見事な果実が生る有名な品種です。尾形光琳の「紅白梅図屏風」よろしく沢山の美しい花を咲かせて目を楽しませてくれるだけでなく、多くの粒ぞろいの実が収穫される日の訪れを今から心待ちにしています。
 平安時代の歴史物語『大鏡(おおかがみ)』にも登場する菅原道真(すがわらのみちざね)は、現代の我々にとっても「天満宮に祀られる天神様」「学問の神様」として有名な人物であり、また同時に梅や桜や松、中でも特に梅を愛でていたことでも知られています。
 道真は、幼少のころより学業に秀で、博学多才にして有能な臣下として、代々の天皇にも篤く信頼され、遂に右大臣にまで昇進します。ところが当時は藤原氏一族が権勢を振るった時代で、道真よりも若いながら上位の左大臣に任じられていた藤原時平(ふじわらのときひら)等の讒言(ざんげん。つまり相手を陥れるために嘘偽りの告げ口を目上の人にすること)により、道真は九州の出先行政機関・大宰府に大宰権帥(だざいのごんのそち)として左遷されてしまうのです。そこで道真は謹慎生活を送り、失意のうちに59歳で亡くなりました。埋葬の地に後代建立されたのが今の太宰府天満宮です。
 道真の死後には続きの話があり、道真失脚に関与したとされる藤原時平が若くして病死したのを始め関係者が相次いで死亡、次いで朝廷会議中に内裏・清涼殿に落雷があり死傷者多数・・・・・・といった事態が発生したため、「これは道真の怨霊の祟りに違いない」と恐れた朝廷は、雷を落とした雷神でもある道真の怨霊を鎮める目的で京都・北野に神社を建立しました。これが今の北野天満宮となります。太宰府天満宮も北野天満宮もともに全国の天満宮、即ち「天神様信仰」の総本社として崇敬されています。
 ところで、道真は、大宰府へ左遷されるために京の都を離れる時に次のような歌を詠んでいます。
 「東風(こち)吹かば にほいおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」。歌意は「我が家に咲く梅の花よ。来年の春、東の風が吹いたら、大宰府へ流された私のところまで懐かしいその香りを送り届けておくれ。家の主が居なくなったからと言って、春に香り豊かな花を咲かせることを忘れてはならぬぞ」といったところでしょう。
 道真の京都の邸宅には、彼が愛でた梅の木、桜の木、松の木が植えられていました。「東風吹かば」の歌を詠んで道真が九州へと旅立った後、桜の木は悲しみのあまり枯れ果ててしまい、梅の木と松の木は道真を慕う気持ちが強く、なんとか空を飛んで主人の後を追ったものの、松の木は途中で力尽きて、現在の神戸にある板宿八幡神社近くの丘に降りて根を下ろしました。ただ梅の木だけは1日のうちに大宰府へ辿り着き、そこに降りて花を咲かせることになったのです。これが有名な「飛梅(とびうめ)伝説」で、この梅の木は「飛梅」の名で太宰府天満宮の本殿前に御神木として現存します。
 波乱の人生を歩んだ道真と、その道真を心底慕う木々との繋がりは、時空を超え、他に類例がないほどに強固であり、悲運の主人に向かって言葉は発せずとも色彩と芳香により何事かを強く訴えかけようとする様は、まさに哀切の極みであり、大いに心を揺さぶられざるを得ません。
 人と木の結びつきですら大いに感動するのですから、いわんや人と人の結びつきにおいてをやです。人と人は、お客様と当社、当社と協力業者の皆様、当社と地域の皆様、社員と社員同士等々様々な置き換えができます。最近のテレビ番組で言えば、『陸王』の「こはぜ屋」、『マチ工場のオンナ』の「ダリア精機」に登場する個性的な面々が思い出されます。こうした人々は決してフィクションとしてだけ存在するのではなく、現実にこの地域にも数多く実在しています。「ものづくり」の街・愛知に、また「ものづくり」の一翼を担う建設産業の世界に。
 この人々に共通することは、一途に、しぶとく、ただひたすらにひたむきに、地道に、愚直に、丁寧に、誇りを持って仕事に携わっているということです。個々人の持てる力を結集し、その総和で大きな目標を達成すべく努められるのも、十人十色の人情味溢れる人々の心持ちによる結びつきがあったればこそだと思います。ここには、傍から見れば、何の派手さも、きらびやかさも、際立って目立つ華やかさも無いかもしれません。しかし、そんな見せかけの立派さとは縁遠い、素朴で、地味で、荒削りの人間の営みの中にこそ、本当の意味で「モノを創造する原動力」が秘められているに違いないと感じています。
 一切の虚飾を取り払ったところに残る核心部分を共有できる人々の繋がり・結びつきは驚くほど強い。「飛梅」と同じ、いやそれ以上かもしれません。
 我々は相手の方々に対して「飛梅」たり得るでしょうか。新年から自問自答しています。
 新しい年が始まり、当社第66期は折り返し地点を過ぎました。引き続き、足元を見、頭上を見、木を見て森も見る、という姿勢で着実に前へ進んでいきましょう。
 今年もよろしくお願い申し上げます。ご安全に。

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